夜中にトントンと
部屋のドアを微かにたたく音が聞こえた気がした
気のせいかと思ってまどろんでいると
また微かにドアをたたく音が聞こえる
もしかしてと思ってドアを開けると
寝間着姿の母が立っている
昼間でも机や家具を頼りにしながら家の中を歩く母が
電気の消えた家の中を
1階の寝室から
階段をのぼって
3階の私の部屋までやってきたのだ
母が一人で眠っていて
暗くなった部屋で目を覚まし
不安になってしまったのか
寂しかったのかわからないが
また来ちゃったかと思いながらも
いつも私は
危ないから戻ろうと母に言って
階段をゆっくりと母のペースで
小柄な母の身体を支えながら一緒におりて
1階の寝室のベッドに寝かせ
子供に言い聞かせるように
危ないから階段を上がってきてはいけないと諭して
母が落ち着いたのを確認してから
3階の自室へ戻るが
一晩に何度も
トントンを繰り返すこともあって
毎回ケガでもしたら大変だと冷や冷やしたが
母の足腰が段々と衰えて
一人では歩けなくなってきてからは
夜中のトントンはなくなった
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