父のあしあと

ご近所の家まで
町会費の集金に出かけて
玄関のインターホンを鳴らすと

鼻にチューブを入れたおじいさんが
玄関の横の部屋のサッシを開いて
顔を出した

自分の名前と用件を告げると
おじいさんは部屋の中を何かゴソゴソと探し始めて
のど飴の入った袋を
町会費を用意するまで
これを食べて待っててと
ニコニコしながら差し出した

そして昔うちの父が
おじいさん宅にお邪魔して
話をしながらお茶をごちそうになったと
教えてくれたので
父がお世話になりましたとお礼を言って
町会費を回収させてもらった

順番で回ってきた
町会費の集金係になったおかげで
あまり人付き合いのなかった父の
意想外の足跡を知った

亡くなってから10年以上経った父が
おじいさんの心の中でまだ生きていてくれて
嬉しかった

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